
男性のスカートファッション
起源:古代エジプトからローマまで
男性が裾長衣を着る昔からありました。古代エジプトでは、ファラオや平民も問わずシェンティと呼ばれる亜麻製の巻きスカートを腔に巻き付け、日常服としていました。古代メソポタミア(シュメール・バビロニア)でも、翊毛状の袬・カウナケスを帯のように巻くスカート状の服が男女ともに着用され、現存する最古の例は紀元前3000年頃のものとされています。
古代ギリシャではキトン(一枚の布を体に巻き付ける裾長衣)が男女共通の日常服であり、兵士も短丈のキトンや、膝上丈の革製・布製の垂れ装飾「プテルギス」を介して装甲の下に着用していました。古代ローマでも、市民はトーガ(巻きマント)の下に短いチュニックを着ており、ズボンは「非ローマ人の野蘇な服装」と見なされていました。つまり地中海世界では長い歴史の大部分において、裾長衣こそが文明人の衣装であり、ズボンはみずぼらしい外部の民族のものでした。
中世・近世:裾長衣は男女共通だった
中世ヨーロッパでも、男性はチュニック(膝丈から足首丈の裾長衣)を基本の服とし、足にはタイツ状のショースを履くのが一般的でした。ショースは現代のズボンとは異なり、左右の足を別々に包むタイツのような仕様で、チュニックの下に隐れていました。つまり外見上は裾長衣が主役であり、ズボンは存在しても下着の一部でしかなかったのです。
一方で、実用一本のズボンは中央ユーラシアの騎馬民族の間でははるか昔から存在していました。中国新疆ウイグル自治区の樭高(ヤンガイ)遗跡では、乗馬に適した股丈・膝丈に分かれたズボンが発見され、約3300年前(紀元前13〜14世紀頃)のものと年代測定されています(2014年の国際研究チームによる発表)。しかしこれはあくまで乗馬民族の実用品であり、西欧の一般市民が日常的にズボンを履くようになるのは、ここからさらに2000年以上後のことです。
なぜ「スカート=女性の服」になったのか
裾長衣が日常から後退し、ズボン(パンタロン)が男性の標準服となるのは、18世紀末〜19世紀のことです。フランス革命期、膝丈で結ぶ貴族の短ズボン「キュロット」に対し、民衆は足首丈までの長いズボンを履く「サンキュロット(culotteなし)」と自称し、革命の担い手として自己を定義しました。英国では同じ頃、社交界の派手だったボー・ブランメルが装飾の少ないダークカラーのセーター・長ズボンを推し進め、上流阶級の日常服として定着させました。
この背景には、産業革命による労働環境の変化(機械や馬に乗る際にズボンの方が実用的)と、启蒙主義以降の「男性らしさは機能的・禁欲的であるべき」という新しいジェンダー規範がありました。対照的に女性のドレスは装飾性を増していき、「実用的で簡素なズボン=男性」「装飾的で裾長いスカート=女性」という二分法が19世紀を通じて西欧全体に根付きました。ズボンが女性に公式に開かれたのはさらに後、主に20世紀前半(第一次大戦中の女性の労働進出や、シャネルのパンタロンなど)のことです。
世界の民族衣装に見る男性のスカート
西欧ではズボンが標準となった後も、世界の多くの文化では男性の裾長衣が日常・伝統衣装として生き続けました。スコットランドのキルトは最も知られた例です。ギリシャやアルバニアのフスタネラ(白いプリーツスカート)はギリシャ大統領警護隊「エバゾン」の制服として今も現役です。東南アジアではミャンマーのロンジーやインドネシア・マレーシアのサロンなど、巻きスカート状の下衣が男女を問わず日常的に着用されています。
中東では男性用の長い裾長衣トーブ(ガラビヤ)がフォーマルな場でも着られ、南太平洋のフィジーでは「スル」と呼ばれる巻きスカートが議会や公式行事での正装とされています。ブータンでは男性の民族衣装「ゴ」が膝上丈のローブ状の服として今も日常的に着用されています。こうした例は、西欧的なジェンダー規範が普逐的なものではなく、地域や文化に固有の歴史的経緯の産物であることを示しています。
軍装とキルト文化
キルトの原型**「フェル・ベーグ(大キルト)」は16世紀末〜17世紀のハイランド地方で発達したとされ、現在の形に近い「スモール・キルト(小キルト)」は18世紀以降に成立したとされます。英国陸軍のスコットランド連隆18世紀以降、部族固有のタータン・キルト**を正式な軍装として取り入れ、現在もフルドレス・キット(儀典用正装)の一部として実際のズボンより実用性が高いとされる場面もあります。軍装としてのキルトは、スカートが必ずしも「弱々しい」イメージとは結びつかないことを示す典型例として、現代のメンズスカートの議論でもしばしば引き合いに出されます。
現代のリバイバル
20世紀後半以降、ハイファッションの世界では男性のスカートを提案するデザイナーが繰り返し登場してきました。日本のヨージ・ヤマモトは1980年代以降、パリ・コレクションで男性用のスカートやローブを繰り返し発表し、ジェンダーの境界をやわらかくするデザインでメンズウェアの可能性を広げました。米国のトム・ブラウンもランウェイでプリーツスカートを含むメンズルックを発表し続けており、高級メンズファッションの一部として定着しつつあります。
ポップカルチャーの側では、カニェ・ウェストが2011〜12年の「Watch the Throne」ツアーでレザー製のキルトを着用して話題となり、メンズスカートが大胆なファッションステートメントになり得ることを示した早い例の一つとしてしばしば言及されます。
セレブリティとレッドカーペット
近年、公の場でスカートやキルト風のルックを着こなす男性セレブリティが相次いでいます。ブラッド・ピットは2022年の映画「ブレットトレイン」プレミアでサロン風の巡りスカートを合わせたルックを登場させ、ジャレッド・レトはレッドカーペットやライブパフォーマンスでスカート・キルトスタイルのルックを何度も登場させています。チェリー・ハーバーもプレスイベントでキルトを着用したことが報道されています。こうした着用例はここ数年で増えており、メディアの注目度も高い一方で、个々の着用の背景や意図はケースバイケース異なるため、一律に「トレンド」として一括りすることには注意が必要です。
ストリートウェアとミディ丈スカートのトレンド
ラッパーやR&Bのシーンでも、スカートを取り入れたスタイリングが話題を集めています。A$AP Rockyはキルト風のスカートやキルトをストリートスタイルに取り入れたルックで知られ、リル・ナズ・Xもジェンダーの境界を跏ぐファッションで知られるアーティストの代表格です。デニムからギンガムチェックまで、素材も幅広く展開されており、ミディ丈スカートはストリート・ファッションの定番アイテムの一つとして定着しつつあります。
着こなしの実践ガイド
スカートを初めて取り入れるなら、フスタネラ風のプリーツや、トム・ブラウンのドロップバックプリーツウールスカートのように、クラシックなシルエットから始めるのが無難です。もう少し大胆なものを探すなら、ヨージ・ヤマモトの大臆なプリントのミディ丈スカートも選択肢になります。どのスタイルを選ぶにせよ、体に沿ったトップスやブレザーと合わせて全体のバランスを取ること、そして何より自然体で着こなすことが、スカートを自分のワードローブの一部として自然に見せるコツです。
むすび
スカートはもともとジェンダー中立の服でした。男性がスカートを避けるようになったのは18世紀末〜19世紀の西欧に固有の比較的新しい規範であり、人類の長い服装史の中では少数派のものです。今日のハイファッションやストリートウェアでのリバイバルは、新しい発明というよりも、人類が長く共有してきた裾長衣という選択肢を、もう一度自分の手に取り戻す動きとも言えます。